『ここが家だ ベン・シャーンの第五福竜丸』
ベン・シャーン絵、アーサー・ビナード著
集英社(2006年)
アーサー・ビナードのトークを聴く機会があった。声を聴くのも、ご本人の姿を拝するのも、この時が初めてだった。流暢な日本語に、間合いの取りかたも絶妙で、ひとつひとつのトピックにちゃんとオチをつけるところなど、下手な芸人なんかよりずっと冴えている。その数日前に、「舌鋒鋭い人生幸朗」ばりの(といったら失礼かな。といったらどっちに失礼かな。笑)書家・石川九楊の講演を聴いたところだったが、いやいやどうして、扱いネタは違うし話術ももちろん違うけど、笑いの取りかたも本質の突きかたも説得力もいい勝負。
何年も前、当時購読していた新聞の夕刊コラムにエッセイを連載していたのを、たいへん楽しく読んだ記憶がある。その中に、「旧」の旧字が「舊」だと知って小躍りした経緯を綴った回があって、とりわけ面白く読んだように覚えている。ヘンなガイジン。我が町には有名無名問わずヘンなガイジンがわんさかと棲みついているので、ヘンなガイジンに会っても驚かないけど、日本人よりも上手に日本語を操るガイジンは、じつはそう多くない。
むかし、零細仏系出版社で雑用をしていた頃、出版物に広告をくれるクライアントと電話で話す機会が多かった。広告主はたいてい仏企業の日本支社、当時は日本人スタッフを雇い入れているオフィスは少なくて、といって赴任しているフランス人スタッフが日本語できるかといえば全然そんなことはなかった。こっちが仏語誌だと知っていて、さも当然のようにフランス語で電話をかけてくる。いくら決まり文句での応対でも日本人だとすぐばれる。すると、「マドモアゼル、実はね……」と優しくゆっくり話してくれるケースもあれば、もうええわといわんばかりに「ムッシュ●●に電話くれって伝えて。ガシャン」で終わるケースもある。そのなかで、果敢に日本語でかけてくるハンサムヴォイスのフランス人がいた。「いつもお世話になっております」「弊社の広告出稿の件ですが」「スケジュールの変更はできますか」と、それはもう毎回、見事な日本語だった。ある時、出版物が刷り上がり、広告主への送付準備をしているとハンサムヴォイスから電話がかかってきた。「お送りいただく掲載誌の部数の変更をお願いしたいのですが」……。これ、ここまできれいに日本人だって言えないよ。ほれぼれするわあ。すっかり目と耳をハートにしながら「もちろん承りますよ。何部お送りいたしましょうか」というと、「ありがとうございます。では、イツツブ、お願いします」
……いつつぶ?
いつ、粒? いえいえ冗談よ、五つ部といいたいのだ彼は。
これほど完璧に日本語を操るビジネスマンが、「五部」を「ゴブ」といわずに「イツツブ」というなんて。
可愛いいいいいいいーーーーーーー!!!(笑)
ますます目と耳のハートが大きくなった私だがなんとかそれを引っ込めてつとめてクールに「ハイ、あのー、いま五つとおっしゃったのは、5部、ということですね」「えっ……。はい、そうですね。ああそうでした。この場合はゴブといわないといけませんでした」「では、たしかに5部、お送りいたします」「はい、よろしくお願いいたします」
セ
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