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周辺に津波の傷痕が残る校庭で開かれた運動会で、騎馬戦をする市立小友中学校の生徒たち=22日午前、岩手県陸前高田市の市立小友小学校(京都新聞)
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凄まじい背景と、中学生の笑顔のミスマッチ……といいたいところだけど、あまりミスマッチにも思えないのはなぜだろう? 空襲後にも似た、見渡す限り瓦礫の山の合間にかろうじてこしらえた小さな空き地のようなグランドで、運動会に興じる、あまりに純朴そのものの子どもたち。屈託なくて、虚飾もない、悲しいくらいに。多くのものを失ったあまり、邪念が去って、今この一瞬をめいっぱい生きるぞ!みたいなピュアなエネルギーに満ちているように見える。
それにひきかえ。
土砂降りの競技会から戻った娘。
「あんなあ、今日、合羽もっていくの忘れたし、アイ先輩に借りてん。そのことをオダ先輩に言おうとしてん。《この合羽、アイ先輩に借りた》っていうことを言おうとして《オダ先輩、この合羽、アイ先輩に借りさせさささ……》ってなってしもて、そしたらオダ先輩が《さなぎ、無理すんな。俺もそれは言えん。高等テクニックが必要や》ってゆわはったわ」
「……あんたらは平和でのん気でめでたしめでたしやわ」
「借りささせていただきました? 合うてる?」
「合うてへんってば。ささせせ言うなっつーの。《お借りしました》、でええの」
「おおおおお」
「感動すんな」
「でもな、させていただいたって言うほうがより丁寧なんやろ」
「なんで? そんなことないよ。より丁寧なんと違て、させていただく、という言いかたにはそれ自体に意味があるからその意味と違う遣いかたしたらおかしいよ」
「ほな《大会に出場する》は?」
「大会に出場いたします」
「マツザワ先生は《出場させていただきます》って言わなあかんって言わはんねん」
「マッツーが? 国語教師のくせに何血迷ったことを」
「大会に出場するのは自分だけの力と違う。大会を運営する人、これまで尽力してこられた先生、先輩がたが居られてこそ、今回、自分が出られるわけやから、《出場させていただきます》って言わなあかんって」
「今度マッツーに会うたら言うたるわ。先生、いったい何をお考えになられておられていらっしゃるのでしょうか? なんでもかんでもさせていただきますってつけたらええっちゅうもんちゃうでしょ、と娘をしからせていただいたんですけどよろしかったでしょうか?って」
「マッツー、お母さんとフランス語で喋りたがったはるで」
「う……今のをフランス語では言えん……シンプルに言うことにするわ。Vous etes bizzare! Vouz avez tort!」
「どういう意味?」
「アンタおかしい! アンタ間違うてる!」
「《出場させていただきます》ってそんなおかしいの?」
「これに限って言うたらさ、先生の意図はわかる。陸上競技の歴史とか発展とかにも思いを馳せろってことやし、それ自体は間違いちゃうねん。でも、あんたらみたいな敬語を全然知らん、遣えへん子どもに《出場させていただきます》って言え、だけ言うたらさ、今のあんたみたいになんでも《させていただきます》つけたらええと思うやろ、アホやから。陸上競技の先人を敬うことと、現代社会における正しい敬語の遣いかたを、いっぺんに教え込もうとして墓穴掘ってんねん。失敗の巻」
「ほな、なんて言うの?」
「出場いたします、でええやん」
「絶対アカンと思う」
「なんで? 出場することは、たしかに先人が引いてくれたレールを辿ることやけど、あんたら選手が汗流して勝ち取ったものでもあるやん。出場するんじゃあって叫んでもいいくらいやん」
「お母さん、おかしい」