2011-01-25
入試を前に、学校では模擬面接なる時間を設けて、近年の高校入試で主流になっている「内申書+小論文+面接」での選抜に耐えられる生徒を送り出そうと懸命である。……懸命なわりには、何となく力の入れどころが違うような気もする。
私たちの街では、公立(のみならず私学もだけど)の入試制度が大きく変わった。激変である。だから私たちのときの「常識」がまったく通用しない。激変していいこともあればよくないこともある。私たちの頃は、進学する公立高校というのは原則、自宅住居のある区域で決まった。第一志望が公立であれば自ずと第一志望校は限定された。そこへ進学するのが嫌な場合は、住む場所を変えるか、私学を受けるしかなかった。自分の地域にある高校と行きたい学校とが一致する場合はよい制度であるし、そうでない場合は悪い制度だっただろう。
今、ちょうどその反対の事態となっている。自分の住む地域にある公立高校へは簡単に進学できない仕組みになっている。どの公立高校も普通科だけでなく専門学科を設け、また普通科の普通コースだけでなく普通科の進学コースも設けている。この、「専門学科」は市内のみならず府下全域から志願者が集まる。「進学コース」は市内全域から志願者を募ることができる。地元対象は普通コースだけなのだが、これも昔のように学区別ではなく、市を大きく二つに分けて北圏・南圏としただけだ。
ウチの住所は北圏に属する。
私の家は、娘の志望校から歩いて5分とかからないところにある。
娘の志望校は私の母校である。なぜそこを志望するかといえば、近いから。そのほかにどういう理由をこね回さなくてはいけないというのだろう。私もそうだったが、地域の高校の文化祭には住民も出かけ、バザーや模擬店で買いものしたりする。グランドを借りて運動会などが行われる。ウチの子は地域の陸上クラブに入っていたが、練習はいつだってこの高校のグランドだった。小・中学校は統廃合が進んだせいで、ウチからの通学路はずいぶんと長い距離になった。そして小学校も中学校も、我が家のある町内会とは離れているので、地域の行事が開催されても、私たちとは関係がないのだった。それに比べればこの高校はずっと、私たちにとって身近な存在なのである。
「でもな、志望理由を訊かれて近いから、って答えるのはNGやねん」
「なんでよ」
「理由にならへんって」
「なんで近い学校を選んだか、自分で整理してみなさいよ。通学路歩くのが嫌で、電車乗るのが嫌で近いとこに決めたんちゃうやん。バレエのレッスンが毎日10時半や11時まであって、それ以降でないと寝られへんやん。もし翌朝電車やバスに乗って1時間以上もかかるとこやったら、絶対遅刻常習犯になるやん。そういいなさいよ」
「別の質問で、バレエと勉強を両立させたいって答えたら、君にとってバレエを続けることはどういう意味があるのですかって訊かれた」
「誰やねん、その模擬面接官」
「タダオ先生」
「いけずのタダオかあ。今日はカン爺とちごたんやね」(先週はカン爺先生だった)
「タダオ先生もよう知ってる先生やし、余計に緊張して、日本語めちゃくちゃになった」
「緊張せんでもさなぎは日本語めちゃくちゃやけどな」
「いつもは自分では何ゆーてるかわかってるつもりやねん。でも、今日は自分でも何ゆーてるかわからんかった」
「前途多難やなあ」
「どうしよう、志望理由」
「近い、をほかの表現に置き換えよう」
「どういう意味?」
「私の家と同じ学区にあるリバーサイド高校は、私にとっては、小学校よりも、中学校よりも、幼い頃から身近な存在でした。大きくなったらこの学校に行くんや、とずっとずっと思っていました。リバーサイド高校の生徒の姿は私の憧れでした。とかなんとか、言うねん」
「……嘘はつけへん」
「ぶっ。そもそも、バレエと勉強を両立させたいっつーのも嘘やんか」
「ぐぐぐ」
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