800?
2010-02-04


『800』
川島誠著
角川文庫(2002年)


対照的な二人の高校生が陸上競技の800mという種目で競う青春小説。

……とかなんとか、たぶんそのような紹介のされ方をしていたのをどこかで見たのであろう。陸上競技の800m走の選手で来年度は中3になるので全国大会出場目指して勝負に出る(笑)我が家のお嬢さんがこの『800』という小説を読みたい読みたいとずっとうるさかったのである。

「読んだらええやん」
「学校の図書館にないねん」
「ふうん」
「ふうん、じゃなくて。今度お母さんいつ図書館行くの」
「行かない」
「行ってよ」
「リクエストしてる本が来たよって電話があったら行くけど。お母さん忙しいもん。自分で行きなさいよ」
「むう〜。さなぎも時間ないもん」

彼女に時間がないというのは本当で、土日朝から晩まで走るか踊るかしていて食べる時間と寝る時間の確保だけでひいひいゆっている。

私がリクエストしてる本というのは、例のダリ本(笑)だったり、3000円も4000円もするみすず書房の本だったりするので、おそらく新規購入の手続きになるので時間がかかると思われた。ま、可愛い娘の頼みだから用事がなくても図書館に行って『800』とやらを探そうか、と一度は思ったのだが、そうするうちに「ご予約の本が届きました」という図書館からの電話が入ったのであった。念のため『800』が行きつけの図書館の書架にあるかどうかを検索したら、ない。市内の、ウチからいちばん遠い公立図書館にある。なんだ、また取り寄せリクエストをしなくちゃならない。でも、あることがわかっているからすぐに到着するだろう、しかもこんなの誰も読んでいないに違いないから貸し出し中でもないはずだと思って、先に予約した本(ダリ本でした〜♪)を取りにいくついでに予約した。

すると3日後だったか4日後だったかに「ご予約の本が届きました」と電話。たぶん『800』だろうと思って取りにいくと、はたして『800』だった。カウンターにダリ本を返し(だって読む必要ないし、あたし。市立図書館さんゴメンね)、取り替えるようにして借りた『800』をその場でぱらぱらと開いてみる。

書き出しの数行は、まあええ感じである。
しかし、2ページ目、3ページ目と進むにしたがって、んーこれはさなぎが期待している内容とはたぶん違うぞ、ということが早くも判明してしまう。

佐藤さんの『一瞬の風になれ』、あれも私はあまり好きではないのだが(言葉遣いが好みでない)、何というか、陸上競技に関する記述、スポーツを直接描いたシーンというものがもっともっと多かったと記憶している。練習メニューのこと、記録会のこと、合宿のこと、重要な試合のこと。
『800』にもそれらは出てくるが、はっきり申し上げて圧倒的に少なくて、800m走という競技の魅力が伝わってこない。800mはトラック2周、だから「Two lap runners」という副題がついている。トラックを何周も走る1500や3000とは違い、また直線部分のみや半周だけする100や200でもない、800という競技の面白さを描きたい……とは思えないのだ。走るシーンが少なすぎる。「800」は単なるネタ、100や長距離だとありきたりだから800を採用しただけなのかと思えて仕方がない。
そんなふうに思えたのは、たぶん私が800に打ち込む中学生の親だからだろう。

あらためてこの作品についての評価をオンライン書店の書き込みや個人ブログなどを検索してみると、すべからく好意的で、絶賛されていたりする。だが、面白いという読者はたいていが800mという競技を知らない。面白くないという評価する読者は陸上競技の経験者だったり、愛好者だったり、実際800mに取り組んだことのある人だったり。
たしかに知らない世界については想像が膨らむし、その一方、事実関係については無頓着でいられるものね。


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