2009-05-27
横田卓也君はウチの娘の三歳上で、ウチの子が小学校に入ったとき四年生だった彼は何かと兄ちゃん風を吹かせて年下の子どもらに威張っていたが、とてもよい遊び相手だった。よく面倒を見、鬼ごっこをするにしても石蹴りをするにしてもドッジボールをするにしても、ともすれば訳わからなくなって敵も味方もぐちゃぐちゃになる低学年のちびっ子たちを統率して上手に遊ばせた。リーダーシップというのかもしれないが、何より卓也君自身がいちばん楽しんでいたのが窺えて頼もしかった。
やがて彼は中学生になり、制服を着て我が家の前の道を、ウチの娘たち小学生とは反対の方向へ、毎朝歩くようになった。入学当初は、私を見かけると、首を前へ突き出して、ざいまっす(おはようございます、の後半だけが聞こえる)といった。けれど、だんだんそういう年頃になるのか、友達と連れだって登校するのをその後も見かけたが、挨拶しなくなった。
挨拶しなくなったのが先か、それともこちらが先だったかもう思い出せない――こちら、というのは、卓也君が頭をバンダナでくるんで登校するようになったことだ。中学校に制帽はなく、帽子やサンバイザー、ターバンの類は禁止されていると聞いていた。だから卓也君の姿は結構目立った。いちびっているようにも悪ぶっているようにも見えないし。しかし、あるとき彼を比較的至近距離で見てはじめてわかった。脱毛症だったのだ。
うなじや耳のそばにもまるで髪の毛がなく、地肌だけがバンダナに隠れ切らずに見えている。正面から顔が見えてわかったが、眉も睫毛も抜けていた。こうなると、人相も異なって見える。
卓也君はバンダナ姿のまま中学三年まで通学していたと思う。どの高校に進学したかは聞いていない。卓也君が卒業してから、ウチの娘も中学生になった。
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