おてて、つないで♪
2008-01-08


ただし、この話題自体はもう語りつくされた感がある。
私は、たまたま、佐藤氏をはじめとする彼らの議論にも馴染んでいたので、本書で語られる内容そのものには新鮮味を感じなかった。「学ばない子どもたち」「働かない若者たち」はもうすでに社会の多数派を形成し、この国の未来を脅かしている。脅かす、というのは失言か。彼らは彼らそれぞれ、個々にとって「快適な」場所さえあればよく、ひとりで生きていけるような社会でありさえすればオッケーなのだ。周りは、すでにそんな人々ばかりである。

私たちは、いったいどうすればいいのか。本書はその問いには直接答えてはいない。これこれをこうしたら、というような応急処置では快方に向かえないからである。
子どもたちが積極的に学びへ向かえるように、まず、仕向けるのは親の義務である。子どもがもっているのは「教育を受ける権利」であり「義務」ではない。「義務」を負うのは親のほうである。親は子どもに学ぶ喜びを味わわせなくてはならない。学ぶことが快感だ、次々と学ばずにいられない、子どもがそう在るように育てるのが親の義務だと、ウチダは言っている。まずはそこから、やり直すしかないのである。

さて、この本のブームはどうやら去ったらしい。寒くなってから以降、『下流志向』はわざわざ予約手続きを取らなくても、いつ図書館に行ってもたいてい書架にあった。私は、借り出し冊数に余裕のあるときは、既読のものでも必ずウチダの本を借りることにしているので、『下流志向』は繰り返し私の手許に来てくれ、愛するウチダの肉声がそこで響いているかのような臨場感を私に味わわせてくれている。
本書の面白いところは、講演会場のフロアからの質疑応答も収録していることだ。質問者の中には、どうしてもウチダの議論に納得できない人も見える。そうした質問者に透けて見えるココロは「そんなのそれぞれの勝手じゃないか」である。講演会場に来ていたのは社会的地位のある企業人たちだと思われるのだが、彼らですら、すでに、「自己決定/自己評価組」なのである。

我が家といえば、最近は私が身をかがめなくても、娘と目線が同じである(泣)。さてこれから彼女にどう対処していけばいいのだろう。彼女がしっかりひとりで歩いていってくれるのはもちろんだが、必要なときに手を差し伸べてくれる友人に恵まれ、彼女の意見や主張に耳を傾け、糺してくれる人々と手を携えて生きていってくれるようにするには。
愚かな親はただただ悩み迷い続けるのである。

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