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ラシッド・タハ。
前回のエントリで、
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誰もライとかアルジェリアとかに引っかかってくれなかったので(しゃあないか)、しつこく引っ張ることにした。
私をアルジェリアに引っかけたのはフランツ・ファノンである。そのファノンを知ったのはフランス語を学び始めた頃だったから、相当古いお付き合いである。ファノンの存在が、私とフランス、私とアルジェリアの結びつけ方を最初からちょっと心理的に複雑なものにしてしまった。複雑なまま、もつれたままの自分の思考を解きほぐしてすっきりしようとしないまま、早い話が放置したまま、今日に至っている。で、そのことはもう、それでいいのである、もはや。
何も勉強していないので、アルジェリアについて私は何も語れない。また、ライについても同様だ。前回紹介したシェブ・カデールは数曲ヒットを飛ばしたあとすぐいったん引退し、最近復活したらしい。私がライに夢中になり始めたころ、他のシェブさん(シェブという名が多い)はあれどカデールのレコードが見つからなかったのはそのせいだったのだが、カデールのブランクは私のブランクでもあって、私はライについて感覚的なことしかいえない。
けれど、アルジェリアのライについてコンパクトにまとめてらっしゃる場所があるので興味があれば読んでください。
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さて、話はいきなり飛ぶ。
留学中、滞在していた街で、ベルナール(仮名)とフレデリック(仮名)という二人の青年に出会った。ふたりは幼馴染みだといったが年もわからず二人に年齢差があるのかもわからず、というよりそういう野暮な質問はかの国ではしないのが普通なので訊ねなかったし、私も年は訊かれなかった。あ、かの国というのはフランスです。
見た目はベルナールが目一杯おいしそう(=オトコマエ)だったので、ベルナールに近づこうとしたんだけれど、フレデリックのほうが私に興味をもったらしく電話攻めにしてきたのである(ええ、電話番号教えたんです、下宿先の固定電話よ)。
このフレデリックがなんとむっちゃ「ええ声」の持ち主なのである。超恋愛用言語フランス語をそんないい声で受話器の向こうで囁かれたりしたら、恋愛経験に非常に乏しい私などはへにょへにょとノックアウトされてしまうのである。
かくしてフレデリックと楽しい日々が始まった。
が、いっぽう、ベルナールが気にならなくなったわけではなかった。
ふたりが幼馴染みでなかったら、モラルも節操も何もない私は平気で二股かけただろうが、さすがにそれはできなかった。
留学期間を終えて帰国した。
インターネットもなかった。電子メールも知らなかった(パソコン通信というのがあったと思うが知らなかった)。
だから、フレデリックには手紙を書いた。しかし彼はどうやら筆不精のようだった。やっと来た返事は数行だけで、しかも筆跡は子どもじみていて(だいたいフランス人はみな悪筆だが)、いささか私を幻滅させた。
いっぽう、ベルナールはたくさんたくさん返事を書いてきた。便箋に何枚も。話題はとりとめのないことだった。でも、達筆とはいわないのかもしれないが、「書くのが好き」で「書き慣れた」人の字だった。彼は子どもの頃のこと、日本のマンガやアニメの話、中高生の頃仲間と喧嘩した話など、尽きることなく書いてきた。フランスと日本の間の郵便は、投函してから届くのに1週間かかるが、私が出したらきっちり2週間後に彼からの手紙は届いた。
それよりよけいに間が開くと、次の手紙にはこんなことが書いてあった。
「君の手紙は僕の日常になくてはならなくなっている」
「ぼくは、君を読まずにいられない。君を読みたい」
文章に恋するということがあることを、私がはっきり思い知るのはもっと後のことなんだけど、思えばこれがその最初の経験だったといっていい。