コピーライター
2007-04-03


ああ、肩がカチカチパンパンコリコリだ。
今、「チョー急ぎ!」といわれた原稿を終えたところなんだが、ほとんど姿勢を変えずに調査検索&コピペ&テキスト入力を繰り返したせいで、肩から背中が鋼鉄のようになった。この状態が金曜・月曜、そして今朝、火曜の朝まで引っ張られてしまった。本当は月曜の朝にアップしなければならなかったんだけど、上司にダメ出しされたので調べ直し&書き直し。

つくっていたのは着物雑誌で展開する記事体広告の原稿で、店紹介と商品紹介および写真で構成する、至極ありがちな数ページ。テキスト量もわずかだ。だけど着物を知らない者には容易ではない作業なのだ、これが。

「あなたの書いたものを読んでいると、本当に着物に興味がないということがよくわかるわ」
「はあ、すみません。興味がないわけじゃないんですけど……」
「着物好きな女性が、どういう点に心惹かれるかがわからないんでしょう。その気持ちはわかる。あなたも私も本物を身近に育ったからね」

上司は呉服商の末娘だった。私には染め職人の父がいた。彼女はそのことを言っている。家には反物や和小物の素材がごろごろしてて、珍しくもなんともなかった。それらが末端価格○○万円なんかになったりする。

「当たり前にあったからかえって、着物に惹かれる人の心がわからない。私も駆け出しの頃はそうだったのよ。だからお茶を習ったりしてそういう世界に身を置く人の気持ちを理解することから始めたの」
「はい」

はい、私も茶道のお稽古に行きます、という意味の「はい」では、もちろんない。

「あなたもお茶を習いなさいとは言わないけれど」

上司はわかってくれている。

「着物ネタはウチによく来る仕事だから、もう少し勉強してちょうだい。着物好きな女性は、とくに雑誌なんかで情報を得ようとする女性は、伝統的な、とか贅沢な、という言葉に弱いの。もっと表現に甘さを加えなさい」

ということで、最も苦手なあま〜い誘い文句を(おそらく必死の形相で)、やっと作り上げたというわけだ。「小粋な装いにほんのり華やかさを添えるパールビーズの帯留め」とか。

着物ばかりか、洋服にも興味がないし、いわゆるファッション雑誌には縁がないので、何をどう書いてあげれば女性が「あ、この着物素敵だわ、欲しいわ」と思ってくれるのか、ぴんと来ないのである。
関心のないジャンル、分野でも、私たちの仕事はその専門家のような口ぶりで書かなくてはならないこともある。すでに私は教育関係や行政関係、医療関係や国際関係で「そのふり」して書いてきた。でも、ふりばっかりなので、いくら「そのふり」経験を積んでもぜーんぜん知識として積み上がらないのが我ながら残念だ。「もう少し勉強してちょうだい」といわれて「勉強する」ということの意味は、ふりができる程度なので、けっきょく着物スタイリストや着物文化評論家になる道が開けるわけではない。

件の上司も、著書を出すくらいの書き手ではあるけれど、彼女が関わるあらゆる分野で相当量の知識を持ちながら、それでも専門家ではない。しかし彼女は「コピーライター」はそうした職業だとわきまえているので自身が専門家でないことに疑問を持たないし、顧客から求められている以上の知識を得るための調査はしない。彼女の関心は多方面へ向くが、先端までは行かない。明快に、この原稿はここまで、という線引きをすることができて、「ここまで」を越える好奇心はもたない。
どんな分野の原稿が依頼されても、彼女はその道の専門家のように書き上げながら、その分野のもう少し深いところについては「そんなことまで知らないわ」と、しゃあしゃあとしている。

そのあたりが、私は割り切れないのだ。私は「何にでも関心を持つ」ことは到底できないし、関心を持ったが最後、知り尽くさなければ気がすまない。だがそんなことやってると、コピーライターとしては失格だ。

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[かたこり]

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