2014-04-13
中村稔さんは、あくまで舞台のミュージカル『レ・ミゼラブル』について言及なさっている。この舞台のたいへんなファンらしい。劇中に歌われる歌の歌詞(英語)を書き出し、訳詞を検討し(さすがは詩人)、と熱がこもっている。日本での初演は1980年代で、ファンテーヌは岩崎宏美、マリウスは野口五郎、コゼットは斉藤由貴、エポニーヌは島田歌穂だったそうだ。島田歌穂はこの役が当たってその後一気に大物女優に成長したとか。しかし、中村さんによれば島田以外の3人はとんでもないミスキャスト(笑)、ミュージカルというのは歌も演技も抜群に秀でていなければならないのに3人はいずれも一方にしか長がなく、それゆえに劇全体を貧相なものにしていた、と手厳しい。そうなのね(笑)。
ミュージカル『レ・ミゼラブル』はフランス製の映画にもなった。仏製ミュージカルではどんなふうに描かれているのだろう。いままでミュージカル『レ・ミゼラブル』にはまるで興味がなかったが、中村さんのように一ファンとして真剣にミュージカルを論じておられるのを読むと、むしょうに観たくなった。
だいたい、原作は物語とか小説というよりも「フランス史」と呼んでもいいほど、フランスの国家としての歴史のいちばんごちゃついた数十年間を舞台にしている。王制から共和政、また王政復古、そしてパリ・コミューンという激動の時代があって、さらには大戦を経て、そして今のフランス共和国があるのよと思って、原作は読まなくてもいいけどそういう時代背景をいちおう考えてそれぞれの登場人物を眺めなければ、面白みは半減すると思うのだ。
従姉の娘たちが本を読める年頃になった時、私は「世界文学全集」を1冊ずつ贈った。全部で20巻くらいあったと思うのだが、第1回配本が『ああ無情』だった。もちろんそれは、コンパクトな抄訳で、小学生に読めるように装幀の工夫されたものだったが、贈る前に、中身を読み返し、抄訳をまとめた人の苦労も考えず『あ、あの場面をはしょってる。よくないなあ」なんて勝手な感想をもったものだった。でも、これをきっかけに、『ああ無情』の完訳を読みたいと思ってくれたら嬉しい、というようなメッセージをつけて贈ったような覚えがある。よく言うよね(笑)。完訳全巻は、よほどのフランス好き、ユーゴ好きが気合いを入れて読まなければ読めるシロモノじゃない。はい、私も、途中で挫折したんです。
ユーゴは、何年も何年もあとに自分の書いた小説が、舞台化される可能性は少し考えたかもしれないが、映画やミュージカルとなって世界中で愛されることになると想像していたであろうか。ましてやマリウスを野口五郎が演じて挙句こき下ろされるなんて、そんな光景を目にしたら何を思ったかしら、と、堀川通の八重桜を見ながら思ったりもしたさ。
京都はもんのすごい観光客ラッシュである。でも一人当たりの単価は下がってるそうだ。みんなしぶちんやな。
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