禺画像]
本書は読み物ではなく実用書である。前半には著者が保管している古い時代の刺し子の衣料品の写真が並ぶ。見事な刺し子の、その正確を期した運針ぶりを見るにつけ、東北の女たちの根気よさ、辛抱強さ、器用さと、高い美意識に感嘆する。後半は、それら刺し子の図案と刺し方の解説が少し。小物に刺すことは、手芸に長けた人にはわけないだろうが、モチヴェーションの違いはあまりにも大きい。刺し子が刺し子であるゆえんを思えば現代人が刺し子作品を創作しようというのはある意味おこがましいというのか厚かましいというのか、身の程知らずというのかお気楽でいいわねというのか。いや、それでも、ひと針ひと針刺すことをしなくてはならないのかもしれない。本書を眺めながら、いつも古タオルを適当に縫い合わせていた雑巾を、今回はちょっと色糸でお洒落にステッチかけてみようかなどと思う私なんぞはたしかに「お気楽」のたぐいだが、ミシンがまともに動かなくなって以来、やむを得ないとはいえすっかり手縫い派になっているのである、実は。そのうち電気が足りなくなったら真っ先に駆逐されるであろう家庭用ミシン(だって、もはやプロ or セミプロ手芸家しか使わないでしょ)。何年も前から新しい上質のものが欲しくて物色していたが、ここ数年すっかり手で縫うことに慣れてしまって、へたくそだけど、この際だから手縫いに専念して腕を上げようと誓うのだ、本書のような本を見るたびに(そして喉元過ぎれば何とやら)。
著者の鈴木さんは福島市に古布の店を持っておられるらしいが、今も営んでおられるのだろうか。