もうこの知性が生きて躍動することはないのだと思うとやはりどう考えても悲しいばかりなのである(その2)――チェチェンニュースから
2009-11-05


「ロシアの文学者たちは、ずっと権力と闘ってきた。ロシア人の反骨精神、反権力、そしてロシアの中の良いものや文化を守っていこうとす気持ちを、万里さんも認めていた。アンナ・ポリトフスカヤさんのような優れたジャーナリストが頑張ってきたのに、わたしにはプーチンがどうしてロシア人に圧倒的に支持されているのか、知りたい。こんな大変な歴史をもっていて、こんなに悲惨な思いをしてきたのに、また同じ道を歩むのかと、悔しい気持がします」
 シンポジウムをただ黙って聞いていた会場の人たちの中から、大きな拍手がわいた。それは明らかに、プーチンに手もなくあしらわれて趣旨替えをして権力におもねる元ジャーナリストへの強い非難を含んだものだった。
 シンポから2ヶ月後、かつてアンナ・ポリトフスカヤさんの仕事を手伝っていたジャーナリストのナターリア・エステミローワさんが、チェチェンの自宅前で誘拐され銃殺死体となって発見された。ロシアと同じく、プーチンの傀儡カディロフ政権の下では、反体制ジャーナリストを殺した犯人は発見されないし、罰せられもしない。そのことを、メディアは大きくは伝えない。継続的なニュースすらない。体制側に乗っ取られたロシアの「国営」テレビはもちろん冷淡な扱いだ。そして日本のジャーナリストはこのざまだ。
 米原万里逝って3年、"かくも長き不在" を感じさせるシンポジウムだったが、しかし、あの600人の拍手の意味を考えるとき、希望がないわけではない。ロシアの文学者・ジャーナリストにもそうであってほしい。

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