スコホッテンなジャックの絵
2007-04-06


『ふとっちょねこ』
(デンマーク民話)
ジャック・ケント 作  まえざわあきえ 訳
朔北社(2001年)

猫の本が続くんだけど、こちらは絵本。
発刊直後に入手して以来、大のお気に入り。すっとぼけた話にすっとぼけた絵がマッチして、絶妙のバランス。短いながら、一字一句訳者と編集者が議論を重ねて仕上げたという訳文が、内容と絵を見事に表現して素晴しいのである。
眺めて感動したり、ストーリーの面白さに唸るような類の絵本ではない。
桃から桃太郎が生まれるはずはないのといっしょで、猫がそんなに何でもかんでも食うわけないのだが、猫は見るもの何でも「たべてしまいました」なのである。
延々と続く「たべてしまいました」が妙に可笑しい。
小さな身体だったはずの猫が、どんどんふくらんでいく。
最後にきこりにたしなめられる。「そりゃあ だめだよ、ねこちゃんや」

途中、猫は「スコホッテンなんとか」をはじめとするけったいな名前の紳士たちを食べるのだが、これら人物名がこれまた話と絵にベストマッチでどうしようもなく可笑しい。
結構これらの名前をリピートするので、それもまた可笑しい。

リズムよく読んでやると、素直な子どもなら間違いなく「へーんなの〜」といって笑うはず。いや、笑わなかったからといってその子が素直じゃないなんていうつもりはありませんけど。
でも本当に、読んでて笑える。聞いてて笑える。ほのぼのと、笑える。

ジャック・ケントさんはアメリカの絵本作家で、生涯に実に多くの絵本を手がけたそうだ。もともと漫画家だったというその絵は、柔らかい線に水彩とおぼしききれいな色遣いが優しくて、とぼけたユーモラスなお話にぴったりのタッチ。といって、個性的な画家の絵本があふれる昨今、決して目立つ存在ではない。むしろ地味なほうだろう。アート志向のお母様方はお選びにならないかもしれません。
でも、この絵は、本当に、とてもいい。
ジャック・ケントさんのほかの絵本も邦訳があるのでぜひ見て欲しい。スコホッテンな絵なのである。

猫でなくても、あまり大食いでないイメージの小動物なら成り立つ話だが、桃太郎が桃でなく苺やメロンでは成り立たないように、デンマークではこの話は猫に限るのだろう。青いガウンを着て寝そべる猫は、最初からあまり可愛げがない。デンマークの猫はどのように生活の歴史を重ね、人々と共存してきたのだろう。
気がつくと、我が家で猫を飼う前から猫の本は数多く読んできているわけだが、猫の描かれ方にも、当たり前だが人間と同じように、いろいろあるものだ。
猫から切り取る世界各国の生活文化を研究してみるのも面白そうだ。誰かやってないかな? 誰かやる気ないかな?
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