2007-01-06
『カラフル』
森 絵都 著
理論社(1998年)
いろいろな児童文学賞を受賞している森絵都さんの作品のひとつ。日本における児童文学というジャンルをよく知るため、とりあえず何らかの形で評価されている作品を読んで研究しよう、と思っていた頃に購入した本。面白い。いくつか読んだ(といってもこれのほかに2作品だけど)森作品の中で、ダントツに面白い。
意表をついた装幀。センスがよいと思う。
線画のイラストも今風。
子どもに読ませるための本を探す親はターゲットにしていない、という気がする。そうでもないのかな? 子ども自身が自ら選ぶように装幀された本、という外観だ。
中学生の家庭生活、学校生活が描かれる。
幸せでないようで、幸せだ。ごくありがちな、家族と学校。
読者ターゲットも中学生以上……であってほしい。
これをすらすら読んで笑える小学生……いるかもしれない……笑うだけなら。
字面だけを追うことはたやすいが、著者が本当に伝えたかったことをしっかり読み取って受けとめる、それほど深い思索ができる小学生は、たぶんいない。
そう思って、長いことこの本は私の本棚に入れておいたのだが、不要物を整理した機会に子どもの本棚に移した。目につくだろうなと思いつつ。
すると案の定、まもなく娘は「これ読んで〜」とねだりにきた。冒頭を読んで興味がわいたらしい。だったら自分で読めよ! と思ったが、本人の理解を超えたボキャブラリーもかなり出てくるので、読み聞かせることにした(で、余談だがそれで誤植を見つけた……購入したての頃に何度も読んだが気づかなかったのに。音読するほうが誤植は見つけやすいことぐらい、わかってるさっ)。
随所にストーリーと関係なく笑わせる小ネタが出てきたり、設定じたいが非常にコミカルだったりするので、聞きながら娘はけらけら笑っている。
しかし本書の主題は、非常に深刻で重大なことなのだ。
病んだ日本の社会の部分部分を切り取ってつないで作ったような物語。
人生を捨ててしまっても、捨てたことを心から悔いて、もう一度生き直せたら。
そう思いながら天に召されてしまった魂が、どれほどあることだろうか。
生き直したい魂ばかりでもないだろうが、やはりもう一度生き直したい、本当は生きていたかったと後悔しきり、という魂もあるのだろう。
しかし、再挑戦のチャンスなど、決して誰にも訪れないのだ。命を捨ててしまったら。
この本を読んで、「あ、再挑戦すればいいのね」と、安易に自殺するバカ者がいないことを願うが、もはやその可能性がなきにしもあらずの世の中だから、もはやティーンエイジャーの気持ちのありようがわからないから、この本は相手かまわず読めと薦めることはできない。
聞きながら「ありえね〜」と笑っていた娘よ。
二、三年後、もう一度これを読み直してくれ。
今度は、自分で。君なら大丈夫のはず。
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